「いいから大人しくしてろ」
「んな無茶なっ」
「────頼むから、もう」
懇願するような響きに、息をのむ。
え……と硬直した私に、真弓はハッとして唇を結んだ。
それを、見なかったふりなんて。
「ねえ、今、なにか言いかけたよね?」
「気のせいだろ」
「言いかけて、飲みこんだよねっ?」
「まだ寝ぼけてんじゃねえの?」
食い下がる私に、一歩も引かない真弓。
意味のない押収を繰り返しているうちに、真弓がすとんと私の体を下ろした。
バイクの上。
いきなり解放されて、わわっとバランスを崩しかけた私を片腕で支えながら、真弓は私の頭にヘルメットを被せた。
「乗り方は覚えてるな?」
「振り落とされないように、しっかり掴んでろ……でしょ?」
「上出来だ」
パチン、と真弓の手が私のヘルメットの留め具をとめる。
そして無造作にバイクを跨いで、いきなりエンジンをふかせた。
「ちょ……、ちょっと待って、行き先はっ?」
「時間がねえ。話はあとだ」
「じ、時間がないって」
「もうすぐ日が落ちる」
薄暗い空を睨むように見上げて真弓が言う。
会話になっていない。
そして何ひとつ説明のないまま、バイクが勢いよく発進した。
「……っ!」
轟音、爆風。
せいぜい吹き飛ばされないように、真弓にしがみつくことしかできない。
真弓の腰をぎゅっと掴みながら、どうして今日はこんなに真弓が遠いんだろう、と考える。距離は近いのに。触れられる距離にいるのに。
肝心なことには何ひとつ、触らせてもらえない。



