花鎖に甘咬み





真弓がそう言うと、ほんとうに大丈夫な気がしてくるから不思議だ。


私を安心させるためでも、格好つけるためでもない。その場しのぎで言っているのではなく、“助ける” と言ったなら、“助ける”。それだけの自信と確証があって言っているんだと、わかる。




「……ええと、じゃあ、真弓は、何者?」

「ああ、俺は」




だるそうに薄く息をつく。

そして、真弓が答える────その前に。ガサリ、と背後から物音がした。忍び寄る気配に、真弓が目を細める。



と同時に、目の前にひらりと突如迫る影。

キラリと走る銀色を、真弓は私を抱えたまま器用にかわした。




「あーれえ、マユマユやんか。こんなとこで、何してるん? しかも、オンナ連れやなあ」

「……」


「その子、〈外〉の子やろ。どこで捕まえたんか知らんけど、そーゆーのはご法度やで? ……まあ、“裏切り者” のマユマユにはわからへんかもしれへんけどなあ」




とつぜん現れた男の人は舐めるような視線を私に向ける。

見えているのは、片目だけ。アシンメトリーの銀髪は彼の右目を完全に覆っていた。



真弓より少し背が低い。

口調のなまりが強くて、ピアスをじゃらじゃらつけている。見えている左目はタレ目気味で、不健康そうなクマが下まぶたに巣食っていた。



……誰、だろう。





「────カオル」


「ああ、俺がなんでこんなところに現れたんかって? そりゃあー気になるわなあ、ここはマユマユのナワバリやもんなあ」




カオル、って呼んだ。

真弓がそう呼ぶってことは、このひとは、真弓の知り合いで……カオルさん?