花鎖に甘咬み




「はい、これでボクとアオのこと、理解?」



こくり、頷く。
そして私も名乗ろうとして。



「……むむー!ん!」



そうだった、口を塞がれていたんだった。

外してくれ、と言外に訴えるけれど、ミユキさんは肩をすくめる。



「ああ、あなたの名前? いいよ、別に、教えてくれなくて。興味ないしね」

「……っ、んん〜!」

「言われても、ボク、覚えらんないしね。あなたの価値なんて〈猛獣〉の女であること以外にないから」



ミユキさんの琥珀色の瞳は探るように鋭い。
臆することなくキッと見つめ返していると、ミユキさんは、「はあ」と息をついて目を逸らした。


「〈猛獣〉はどうして、あなたをそばに置くことにしたんだろうね? ボクには理解不能だ。こんな平和ボケしたアホそうな女のどこに価値を見出したのか、普通に気になるんだけど」

「……むむむ」


さっきから思っていたけれど、ミユキさんってかなりの毒舌だ。面と向かってちくちくした毒を吐かれると、多少なりと傷つくのですが……?

それに「平和ボケしたアホそうな女」って! もっとほかにマシな言い回しがあったんじゃなかろうか……。



「ま、ボクはあなたのことを知るつもりもないし。あなたも別にボクらのことなんて覚えなくていいけど、とりあえずよろしくね」



す、と握手を求めるような腕が伸びてくるけれど、応えられるわけがない。だって、握手しようたって、両腕が縛られてるんだもん……!


それに、よろしくするつもりもない。