花鎖に甘咬み



目の前で口喧嘩がはじまってしまった。

言い争うのは自由だけど、できれば私の前ではやめてほしい。……なんて言うこともできず、白けた目でふたりを見る。


それにしても「キール」って。



『カーディナル、俗称〈赤〉。キール、俗称〈白〉。それぞれ赤薔薇と白薔薇が紋章になってる』



真弓の言っていたことを思い出す。

ハッとして、ふたりの顔をまじまじと見る、と。




「……っ」




ミルクティーの彼は、目尻に。
オリーブの彼は、喉に。


それぞれ白薔薇が鮮やかに咲き誇っていた。


それは、紛れもなく〈白〉────真弓がもともと所属していた〈赤〉の対抗勢力だという証だ。今もなお〈赤〉に所属する花織さんとは敵対関係、ってこと、だよね……。




「理解した? あなたは、今、〈白〉の檻の中」



びく、と肩がふるえる。
ミルクティーの彼が、すっと目を細めた。




「あなた、〈外〉の人間でしょ、ほんと可哀想にね? まあ……同情はしないけど。〈猛獣〉のそばにいたあなたが悪いんだから」

「利用しない手がねえからな。狙ってくださいって自ら首差し出してるようなもんだ」



冷たい。

真弓や、それから伊織さんに花織さん。この街に来てから話したどのひとたちよりも、まとう空気がひんやりしている。

それが、怖かった。



「一応、自己紹介でもしとこうか。ボクは深幸(みゆき)、それからこっちのせっかちバカが青葉(あおば)

「おい、テキトーなこと言うな」

「事実でしょ」

「チッ、女顔のくせに」




ミルクティーの彼は深幸さん。

オリーブの彼は青葉さんというらしい。