花鎖に甘咬み


× × ×



「うぅ……ん?」



瞼がすごく重い。

頭も、鈍い痛みがまとわりついて離れない。


チカチカと点滅する視界を広げるべく、そうっと目を開けると。




「ミユキ。起きたぞ」

「え、もう起きたの? 思ったよりだいぶ早いね。タフなのかな」




ヤンチャで派手な感じのオリーブブラウンの男のひとと、ミルクティーブラウンの男のひとにしてはかわいい顔つきのひとが、私の顔を覗き込んでくる。


見覚えのあるふたりに、ハッとする。

目を見開いた私に、ミルクティーブラウンの彼が不敵に口角を上げた。



「あ、思い出した? 可哀想にねえ、あなた、ボクたちに攫われちゃったんだよ」

「……!ん〜〜〜っ、む」



思い出したもなにもあるか。

真弓の隠れ家にいるところに、このひとたちが押しかけてきて、口を塞がれて、拘束されて、意識が戻ったらこの状況で。


言いたいことに聞きたいことが山ほどあるのに、喋ることができない。私が今どういう状態なのか、自分でも確認できないけれど……たぶん、テープかなにかで口を塞がれている。



「手荒な真似してごめんね? でも、そうじゃなきゃ、あなた、抵抗するでしょ? なら、仕方ないよね」



柔和な語尾の語り口が少しだけ伊織さんに似ている。

けれど、高圧的で逆鱗にふれると、絶対に許してくれなさそうな鋭利さをもった琥珀の瞳に鳥肌が立つ。




「ここがどこだかわかる?」

「んー……! んん、っ」



口だけじゃない。

椅子に座らされて、後ろ手で縛られて、さらには足まで固定されている。抵抗しようと体をよじるけれど、椅子がギシギシと音を立てるだけだった。


ここが、どこか、なんてわかるわけない。


見渡す限り、白い壁、壁、壁。
箱のような空間に閉じこめられている。


ミルクティーブラウンの男のひとをキッと睨むと、そのひとは、かわいらしく小首をこてんと傾げた。




「あ、ごめんね? あなた、喋れないんだった。────仕方ないから特別に教えてあげるよ。ここは」

Kir(キール)の城だ」



オリーブブラウンの男のひとが言葉尻を奪う。



「ちょっと。今、ボクが喋ってるんだから、アオは引っ込んでなよ」

「ミユキは回りくどいんだよ。さっさと本題に入ればいいだろ」

「うるさい、クズせっかち」

「あ? 今なんつった、ゴミ女顔」