花鎖に甘咬み




オリーブブラウンの男のひとの翡翠の瞳と、ミルクティーブラウンの男のひとの琥珀の瞳が、じりじりと近づいてくる。


背中につめたいなにかが伝う。

息をすうと、ひゅっと喉が鳴って────だめだ、このひとたち、危ない人だ。逃げないと!




「まゆ……っ、んん」




立ち上がって、真弓を呼ぼうと声を上げたけれど。

すぐになにか布のようなもので口をふさがれてしまう。



「ダメじゃん、逃げちゃあ。女の子は大人しくしおらしく従順な方がカワイイんだから。ま、これはボクの自論だけどね?」

「てかさあ、純圭サンって女駄目だったろ。なんでコイツのこと連れて来いって言うんだよ」

「さあ? それほど “使える” ってことなんじゃないの。……んな無駄口叩いてないで、アオもさっさと手動かしなよ」




抵抗するも、手遅れで。

体のうしろで捕まえられた両腕は、紐のようなものでひとまとめに縛りあげられて、自由が奪われる。




「もが……っ、もごっ」




息がくるしい。
くらくら目眩がする。


なんとか助けを呼ぼうとするけれど、布にすいとられて、声になってくれない。じたばた足を動かしても、男のひと2人がかりで押さえられていると、びくともしない。


それでも必死に抵抗していると。




「おーおーおー、コイツやけに元気だな。この状況で抵抗するだけの気概が残ってるとか……よっぽど気が強いとみた」

「まあ、あの〈猛獣〉の女だからね。普通じゃない」

「今〈猛獣〉にバレると厄介なことになるぞ。どうする、ミユキ」

「どうもこうもないでしょ。そのうちこの子、意識飛ぶから」




なに、言って……。


呼吸がうまくできなくて、意識がぼんやりしてくる。

どうにか酸素がほしくて、すん、と息をすうと、鼻をツンと薬品のにおいがかすめて、どろりと意識を侵食するような奇妙な感覚がした。



なに、これ……。

わけもわからないまま、次第に視界が白んでいく。




「ね、限界でしょ。さっさと眠りなよ。つか、ボクの手を煩わせないでほしいんだよね」




耳もとで囁かれて、視界にミルクティーの髪が揺れる。

消えていく意識に必死で抗おうとするけれど、意志に反して、どんどん頭のなかが重く気だるくなっていく。



意識がぷつんと途切れる直前、鼻先をかぐわしい薔薇の香りがかすめて、白んでいく光景のなかに最後に見たのは、私の口を塞ぐ男のひとの目尻に咲き誇る白薔薇の紋章で。




「……っ」





真弓。

深淵に沈んでいく意識のなかで、すがるようにその名前を強く思い浮かべた。