「……っ」
両手で口もとを押さえて、息をひそめる。
『猛獣』って、真弓のことだもんね……。やっぱり、真弓の知り合い、なのかな。どういうひと、なんだろう。
恐怖よりも、好奇心のほうがすぐに上回ってしまう。
ちょっとだけなら、とその油断が仇になるとはつゆほども思わずに、立ち上がって、わずかに開いた扉の隙間から外をのぞけば。
────否、のぞく、前に。
「……っ、きゃっ!?」
ガチャンッ、と乱暴な音が音がして、扉が倒れる。
重力に従って地に落ちた扉、その衝撃で立ちのぼる土ぼこり、その向こうから人影がふたつ、ぼんやり現れる。
「なんだ、〈猛獣〉じゃねえのか。つまんな。つかコイツ誰」
オリーブブラウンの髪を鬱陶しげにかき上げる男の人、ひとり。
「アオ、純圭サンの話ちゃんと聞いてなかったわけ? この子、〈猛獣〉の女でしょ」
ミルクティーブラウンの髪をさらりとなびかせる男の人、ひとり。
「ハア? 〈猛獣〉の女ァ? んなけったいなことがあっかよ」
「それは同感だけどね。つうか、俺的には〈猛獣〉がこんなトコに隠れ家こさえてた方がびっくりだよ」
髪色を認識するだけで、精いっぱいだった。
驚きそれからいろいろで、腰を抜かしてへたりこむ私を、品定めするように見下ろしてくるふたりの男の人。
さながら、ヘビに睨まれたカエルな私は、身動きとれず。
「ま、この子は連れて帰らなきゃね。〈猛獣〉の女ってだけで利用価値は十分にあるし────」
「ああ。純圭サンの命令だからな」



