花鎖に甘咬み



「……っ」



もしかして、だれか、入って来てる?
通路とつながる扉のそばに、あわてて駆け寄った。

頭をくっつけて、じっと耳をすませる。



「────じゅうが、──多分──はず」

「──女──とりに利用────……」




とぎれとぎれにしか聞こえない。内容はわからない。

けれど、誰かが、たしかにいる。話し声がかすかに聞こえる。

ど、ど、ど、どうしよう。
心臓がいっそう早鐘をうつ。



「いやいやでもでも、伊織さんみたいに真弓の知り合いかもしれないよね、そうだよね、そういう可能性もあるし……、でも」



ザワザワする心を落ちつけるため、ぶつぶつひとりごとを呟きながらあれこれ考える私の頭からはすでに『何かあったらすぐに俺を呼べ』という真弓の忠告は抜け落ちていて。



そして、ゴンッ、とひときわ大きな音がする。
音の距離が近い。


扉を直接ノックするような……。




「〈猛獣〉、いるんだろ? 出て来い」




誰……!?

扉一枚、その向こうから聞こえた知らない男のひとの声に、肩がビクッとふるえた。