花鎖に甘咬み



「〜〜……っ、ぷはっ! ぐ、ぐるしい……」


プールに溺れたあとみたい。

スーハー肩で勢いよく息をすると、涼しい顔した真弓が余裕げに見下ろしてくる。



「息止めるからだろ」

「ど、どうやって息をしろと……!」




真っ赤な顔で睨みあげると。




「ふは、その顔、すげえ好き」

「な、っ」

「いかにも慣れてねえな、ってとこが堪んねーな」



真弓もちょっとくらい余裕ない顔でもすればいいのに。

そういえばまだ、見たことがない。

真弓の余裕ないところ、切羽詰まっているところ、焦った顔も、必死な姿も。



「ていうか、そもそもダメだから! 勝手にき、……きす、するの、私許してないっ! 有罪! ギルティ!」



口にするのも恥ずかしくて、キスの2文字が妙に小声になってしまった。そんな私の心境はお見通しみたいで、「くくっ」と笑われてしまう。


まったくもって余裕の真弓はにやりと口角を上げた。




「そのわりに、ちとせ、嫌がってねえじゃん」

「……!」



ぎくり、と固まった。
図星……かもしれなくもない。




「つまり、同罪」

「ちが……っ! それとこれとは違うでしょ!? それに、もう、今ので4回目だもん! スリーアウトチェンジなんだから反則なの〜〜〜!!」

「……は、野球?」



自分でもなにをまくし立てているのかよくわからなくなってきた。ほっぺたを通り越して、耳たぶまであつい。


真弓もさすがに呆気にとられている。

そして、数秒後。




「つか、キスの回数カウント取ってんの?」

「……わ、悪いですか」

「いや? 数えられるほどしっかり記憶に残ってんなら悪い気はしねえなと思ってな」



そう言われるとこっちが悪い気しないのでやめてほしい。


ううん、5回目はぜったいに、防いでみせる。
真弓の好きなようにはさせないもん。

ぜったいにね……と固く誓いを立てる。




「ま、シャワー行ってくる」

「はい……」




半ば放心状態の私を置いて、真弓はシャワー室へと消えていく。

ひとり取り残された私は、「はああ……」と甘いとも苦いともいえない長いため息をついた。