花鎖に甘咬み



「へーえ」


ちゃんと答えたのに、そっけない返事しか返ってこない。

これにはちょっと違和感を覚えた。



「真弓、なにか、変?」



愛想のない相槌だけの真弓なんて、らしくない気がする。心配になって尋ねるけれど、真弓は肩をすくめるだけだった。



「別に?」

「別に、って……」



戸惑う私をよそに、真弓はお鍋に水とシチューのルウを放りこむ。いつの間にか野菜はしっかり炒め終わっていたみたいだ。


あとはぐつぐつ煮るだけ。

真弓がお鍋のふたをきっちり閉めた。




「煮込んでる間に、シャワー浴びてくる」

「あ……、うん。いってらっしゃい」

「鍋、燃やすなよ」

「も、燃やさないよ! さすがに!」



意地悪く笑った真弓は、いつも通りの真弓だった。

私の反応に、くく、と喉を鳴らした真弓は「それから」と言葉を重ねる。




「何かあったらすぐに俺を呼べ」

「なにか、って」

「なんでもだよ。非常事態が起きたらだ。いいな?」




相変わらずの雑な説明に、頭のなかは疑問符だらけ。

だけど深く考えても仕方ないと諦める。



こくり、と頷くと「いい子だ」と真弓の手が、ぽんと頭に乗った。


わしゃわしゃ撫でられて、そのあと、真弓の指先が頬をすべる。甘やかすような仕草にどくっと心臓が鳴って、その次の瞬間には唇が重なっていた。



「っ、んむ」



とつぜん口を塞がれては、心の準備も息もできない。


じゃれつくみたいに触れ合わせるだけの戯れのキスだけど、ぴたりと唇が合わさって、それが長く続けば、酸素は足りなくなってくる。


ちゅ、とかわいいリップ音とともにようやく唇が離れるときには限界寸前なわけで。