「お前、本から得る知識偏りすぎだろ」
野菜をジュージュー炒めながら真弓が言う。
それから、なにを思ったか、振り向いた真弓は私をじーっと見つめて。
しばらくそうした後、口を開いた。
「ちとせは、結婚したいとか、思うのか」
「ええっ、急になに?」
「新婚がどうとか言うから、気になった」
「うー……ん。したいとか、したくないとか、あんまりそういうこと考えたことないけど……。憧れは、あるよ、それなりに」
だって、ロマンティックでしょ?
永遠の愛を誓うなんて、物語みたいで。
いつか私も……なんて、考えないことはない。
「ふーん」
「ふーん、って」
ずいぶん興味なさそうな返事だな。
真弓の方から聞いてきたくせに。
とか思っていると、次なる問いが飛んできた。
「婚約者は? いるっつってたよな。ソイツと結婚したいとか思わねえの?」
「思わないよ!」
「なんで?」
なんでって……そりゃあ。
「そもそも婚約なんて、私はしたつもりないし、お父様が勝手に言ってるだけよ。そのひとと、会ったこともないし……。私は誰かが決めたひとと結婚するつもりなんてないもん。一緒にいるなら、好きなひとがいい」
「……へえ」
「会ってみて……すごく、すごーく素敵なひとだったら、結婚を考えなくもないかもしれないけど」
でも、今の私は、目の前にいるこのひとが好きだもん。
真弓以上に、私の心をぎゅっと捕まえて離さないひとなんて、現れる気がしない。たぶん、いない。



