花鎖に甘咬み




そう言った真弓の顔は、どう見ても真剣に心配してくれているときのもので、当の私はにやにやしてしまった。

しかし、浮かれて、ほんとうに指を切り刻んでしまっては大惨事なので、切り替えてブロッコリーに向き合うこと数分。



「全部切れた!」

「おー」

「ちゃんと見てよっ、すごいでしょっ?」

「すごいすごい」

「棒読み〜〜〜!」

「ったく、時間かかりすぎなんだよ」



くしゃ、と無造作な手つきで私の前髪を乱してくる。

そんな真弓は、切った野菜をぽんぽん鍋に放りこんでいく。



「もうお鍋に入れちゃうの?」

「ん、炒めて煮る」



チチチ……とガスコンロを付けて、真弓が野菜を炒める様子をひたすら眺める。

「手伝うよ!」と提案すると「お前ぜってえ焦がすだろ、引っ込んでろ」と一蹴された。ひどい。

でも、なんだか、こういうのって……。



「こういうの、新婚さんみたいって言うんだよね」

「っ、は?」

「本で読んだことあるの!」



キッチンに立って一緒に料理をつくる男女は “新婚さんみたい” らしい。わかんないけど、小説の主人公たちはそう言っていたから、そうなのだと思う。