花鎖に甘咬み




覚えろ、なんて命令口調で刻みこまれる。

ほんとうにどういうわけか、このひとの声はするりと心のなかに忍びこんでくる。


本城真弓、たった1回聞いただけで、しっかり覚えてしまった。




「えと……」

「これでもう “知らない人” じゃねえだろ」




ん、と先ほど振り払ったはずの手のひらをもう一度、目の前に差し出される。



なんて、横暴な。

名前を知ったから、もう知らない人じゃない、なんてものすごい屁理屈。



きっと、変わってしまう。
そんな予感がひりひりと伝わってくる。


この手のひらに、私のものを重ねれば、きっと、なにもかもが変わってしまう。それは、良くも、悪くも。




────だけど。




「……っ」




きゅ、と唇を結んで、私は覚悟をきめた。


差し出された手のひらに、ちょんと指先を軽く重ねると、すぐさま腕ごと囚われる。





「最初っからそーやって大人しく掴まっとけばいいものを……っと、そろそろバックれるか」

「へっ、ど────」





どこに、と訊ねるより先に、体がふわっと宙に浮いた。





「歯、食いしばっとけ」