花鎖に甘咬み




両親にも柏木たちにも。
口酸っぱく言われてきた忠告を思い出す。


それに……言われなくとも。
知らない人に着いていくのは、危険なことだってわかってる。


だから、いたって真剣に、そう言ったのに。



「は?」

「え」


「いや、お前、わかってんの。コイツら、しばらくの間、気絶してるだけ。そのうち目覚めて、またお前のこと追いかけるだろーよ」




びく、と肩がふるえる。

フードの下の冷えきった目に、迷いもなく向けられた銃口……思い出すだけで冷や汗が伝う。




「逃げれんの、自力で」

「……っ、それはっ」


「もうわかってるだろーが、コイツらに捕まったらお前、本気で終わり、な。〈外〉からの侵入者には容赦ねえから」




そんなことあるわけ、なんて反論はもうできなかった。なにひとつ、ほんとうのことは、わかっていないけれど……。


猛獣、とたしかにそう呼ばれていた彼の目は本気で、嘘のひとつもなさそうで。



ぐ、と息をのむ。




「のたれ死にたくなけりゃ、さっさと来れば」

「……っ、や」




来れば、といいつつ、そのひとは強引に私の手をとった。あったかくて、びっくりした。


屋敷を飛び出してから、はじめて、温度のあるものにふれたから。



けれど。




「……っ!」




ぱ、とその手を振り払えば、眉をひそめる。
はー……とため息をついたかと思えば。




「クッソ強情だな、お前。あんな、こっちは善意100パーセントなんだわ」

「っ、だって!」


「だって?」

「っ、知らない人には着いていっちゃダメなんだってば……!」




いーっと口を横一文字にひくと。




「っ、く、ははっ」

「っな、なんで笑うの……」


「いや。お上品な面してっから、もうちょっと大人しく言うこと聞くかと思えば、予想外っつうか」

「……は」


「しゃーねえなあ」




微かに口角を上げた彼は、指先をするりと私の頬にかすめた。まるでペットの子兎にじゃれつくかのように。




「本城真弓」

「ほんじょう、まゆみ?」


「覚えろ。俺の名前な」