花鎖に甘咬み




「相棒……」



たしかに、さっきもそんなことを言っていた。
けれど、真弓はきっぱり否定していたし、私から見ても……ただ単に “相棒” というわけではなさそうに見える。



「ええと……じゃあ、質問を変えます」

「どーぞ」

「伊織さんにとって、真弓って、どんな存在ですか?」



かちゃかちゃと、手元のボウルで卵を溶いていた伊織さんの手が、一瞬止まる。

そして、遠い過去を思い出すような目をして。




「命の恩人、かな」

「命の……恩人?」

「うん。俺と花織のね」



答えて、伊織さんは溶き卵を鉄鍋に流し込んだ。ジュワッと、食欲をそそる音が響く。

その音をBGMに伊織さんは、懐かしむような口調で、語り始めた。



「俺と花織が〈薔薇区〉に来たのは、マユよりずっと後のことなんだ。俺たちがココに入ったときには、マユはもう既に〈猛獣〉だった」

「そう……なんですね」

「うん。でもまあ、マユに出会ったときは、そんなこと知らなかったけどね」



伊織さんは少し肩をすくめる。



「ちぃちゃんもわかるでしょ。この街は〈外〉となにもかもが違う。規則も、序列も、人柄も。新参者が慣れるには時間がかかる。────俺も花織も、あの頃は右も左もわからなくてさ」