花鎖に甘咬み




「いい目するね。マユがちぃちゃんのことを気に入る理由もわかる気がするよ」

「伊織にはやらねえよ」

「わかってるって。俺も〈猛獣〉のオンナに手を出すほど馬鹿じゃないから。さすがにお手上げ」



口角をきゅっと上げた伊織さんが、私をまっすぐ見つめる。

そして、また口を開いた。



「俺も、ちぃちゃんと同じだよ」

「……へ?」

「ちぃちゃんがわざわざこの街にいるのは、何か強い目的があって、でしょ。覚悟があるって顔をしてるからね。────そういう意味では、俺も同じだ」



伊織さんはわずかに目を伏せる。



「〈黒〉にいるのは、俺の目的のために、一番都合がいいからだね。〈黒〉の価値基準には正直言って全く賛同できないけど、情報を手に入れるには一番いいんだ。このポジションを利用するだけしてやろうと思ってるよ。んで、そのついでにマユに情報を流したりもしてる」

「伊織さんの目的って……?」

「それは内緒かな」



謎多きひとだ、と思う。



「やってることとしては “情報屋” ってとこだな。情報を売り買いして〈薔薇区〉を回してる。敵に回すと厄介だが、今のところ警戒する必要はない」



真弓の言葉に、少し心が落ちつく。
彼がそう言うのなら、そうなのだろう。



「じゃあ……えと、よろしく、お願いします」

「うん」




もう一度しっかり握手し直して、手が離れる。
真弓ほど大きくはないけれど、力強い手だった。