花鎖に甘咬み



伊織さんがどこからともなく取り出した手鏡を受けとる。

それで、首もとを確認すれば。



「……!」



紅く、くっきりと。
半円形の歯形が肌に刻まれている。



「ね、わかった? マユの歯形でしょ、ソレ。ちとせちゃ……違う、きみ、肌白いから余計目立ってる」

「う、あ……」

「まあ、珍しくないんだけどね。マユが噛み痕つけんのは、今に始まったことじゃないし」



伊織さんの言葉に目を見開く。

今に始まったことじゃないって……。




「どういうこと、ですか?」

「いや、言葉通りの意味だけど……。あれ、ちとせちゃん、知らないんだ? マユが〈猛獣〉たる所以」

「猛獣たる所以……って」


「うん。マユ────本城真弓がこの街で〈猛獣〉って呼ばれるのには、二つ、理由がある。ひとつ目は、単純に、強いからだね。マユが本気を出せば、少なくとも1対1じゃあ誰にも勝ち目ない。〈赤〉〈白〉それぞれのトップでさえもね」



一本指を立てながら、伊織さんが語る。
ひとつ目の理由は、強いから。



「それは……、わかります」

「だろうね。もう既に、花織とそれから〈黒〉のヤツらに遭遇済みなんだったっけ。マユ、強かったでしょ」



こくり、頷く。

ていうか……、ほんとうに、伊織さんはどこまで知っているのだろう。行動のすべてが見透かされているみたいで、少し怖くなる。




「まあ……マユの本気はあんなもんじゃないだろうけど」




小さく呟いて、伊織さんがふたつ目の指を立てる。

出来上がったピースサインをちらつかせながら、薄く唇を開いた。




「ふたつ目は、噛みつき癖」