花鎖に甘咬み





「 “コイツ” の出番になっちまうなア」




男の手のひらにおさまるサイズの、黒光りするそれは、ふつう、刑事ドラマでしかお目にかかることのないような────拳銃、だった。



ぞっと背筋が凍る。

どうしてそんなものを普通に手にしているの。銃刀法違反、思いっきり犯罪だ。



なにかとんでもないことに巻き込まれているのかもしれないと、ここにきて大きな恐怖の波が押し寄せてくる。



そんな私の恐怖などつゆ知らず、男が黒光りするその銃口をまっすぐ私の方へ向けた。




「…………っ、ゃ」




声もまともに出せない。

時がとまったかのように、ただ、浅い呼吸を繰り返しながら、銃口をにらみつけることしか。




どうしよう、どうしたら、どうすれば────。



恐怖と焦りばかりがつのって、ピークに達した、そのとき。





「うがッ!」




拳銃を向ける影が、間抜けな悲鳴を上げて、どさりと倒れた。カラン、とあのおそろしい武器が転がり落ちる音がする。


あまりに一瞬のことで、何もわからなかった。

ただ、目を見開いて固まっていると。





「────女、死にたくねーなら伏せときな」





低い声。


圧倒的な存在感と威圧感のあるその声が、まっすぐ届いた。




ひとの声だった。

フードの男たちの声が、冷たく温度のない機械のような声だとしたら、私に今語りかけたのは、まぎれもなくひとの声。



それでいて、支配的。


その声の持ち主が誰ともわからないのに、体が素直に従っていた。

『伏せろ』────その命のまま、その場にうずくまる、と。




「ガハッ、う……ッ」

「お前ッ、赤の猛獣か!」

「んで、こんなとこに……っぐぁッ」

「うぐッ」




思わず耳を塞ぎたくなるような衝撃音と、悲鳴。

突然現れた何者かが、まるで赤子の手をひねるかのように、次々とフードの男たちをなぎ倒していく。



「俺はもう、〈赤〉じゃねえっつの」

「っ、は、お前まさか本気で────」

「あ? うっせえな。……テメェで最後か」




背後のフード男のもつ銃を片肘で落とす。
そして、すらりと長い脚で男の膝を引っかけて、地面に叩き落とした。


いとも簡単にその場を制圧した彼は、その切れ長の瞳をこちらへ寄越す。





「無事か」