花鎖に甘咬み



ゴツンッ、と鈍い衝撃音。
うっ、と男が呻いてよろける。


よし、決まった、渾身の頭突き。




「チッ、生意気な小娘がッ!」

「……っ!」




そばに控えていたもうひとりの男が飛びかかってくる。すんでのところで身を翻す、そして。

一か八かで足を振り上げた。




「ぐおっ、かは……っ」




き、決まった……!

柏木仕込みの急所蹴りだ。



幼いころから金目当ての者たちに狙われることが多かった。誘拐を危惧した柏木から、万が一のときに、と教わっていた護身の一撃。まさかこんなところで役に立つとは思わなかったけれど。



ありがとう柏木、ともう直接お礼を言うこともできない執事に心のなかで手を合わせながら。




「……っ、はぁ……っ」




無我夢中で走った。
今日だけで、もう一生分走り尽くしている。

もうとっくに限界は超えていて、息もあがるし、足ももつれて…………。




「ハッ、逃げ切れると思ったか?」

「……っ!」




真後ろから聞こえる声に青ざめる。

もう、追いつかれたの……?



あんなに必死に走ったのに。
慌てて男から距離をとろうとするけれど。




「残念、そっちは行き止まり」

「……っ、ぁ」

「さっさと降参しな、じゃねえと」




フードの男の言うとおりだった。

行く先は途切れて、崖のように崩れていて、到底飛び降りれる高さじゃない。



カシャン、と不穏な音が響きわたる。
そして、男が取り出したのは。




「……な、っ」