「……どうして? 橘くん……」
そう言う少女は前に見たことのあるやつだった。
中庭で湧人と再会した時に、湧人を追いかけてきたショートボブのあの少女だ。
「……私の事、 一度は考えてくれたんじゃなかったの……?」
悲しそうに少女は声を震わせる。
「誤解させたならごめん。 でも、オレには好きな人がいる」
語尾を強め、はっきり湧人は口にした。
「……好きな人? もしかして、この間の……?」
「…………」
「……そんな、 だってあのコには彼氏が……」
「関係ないよ」
「……え?」
「たとえそうだとしてもオレの気持ちは変わらない。 好きなんだ……彼女だけが、ずっと……」
「……橘くん……?」
湧人を見上げ、少女は少し黙りこむ。
そのうち、諦めたように視線をガクッと下にさげた。
「……分かった……」
少女がその場を離れてゆく。
やがてパタンと扉が閉まると辺りは無音に包まれる……
「もう出てきていいよ」
湧人がこっちに振り向いた。


