冷たい風が私を包んでいた。
“ドゴゴ、ドゴゴ”と大きな音がする。その音は激しい。その音は私の足元から聞こえた。とても嫌な音だ。それは世界が終わるような醜い音だった。
”ドゴゴゴゴ”
地震の音と思っていたのが違う、なにかの叫び声だ。
「人間の声だ・・・」
奇声や雄叫びの様な叫び声がいくつも重り合っていた。叫び声は楽しそうにも聞こえるし悲鳴にも聞こえた。そして大人の声もあるし少女の声もある。
鼻の中に嫌な臭いが入ってくる。
何ヶ月も洗っていない薄汚い犬みたいな臭いだ。
「・・・・」
耳を澄まして声を聞き取る。風の音に邪魔されてなかなか聞き取れない。
その声が日本語だとわかるまでにずいぶんと時間がかかった。
「お前---こにいるんだ--」
その声は興奮していて激しかった。
何を言っているのだろうか?
聞きとりたいのだが幾重の声が重なり、かき消されて何も聞き取れない。
いったい何が起こっているんだ?
それにどうして足元の地面から声が聞こえているのだ?

霧が晴れる様に白い空間で埋められていた視界が徐々に晴れ渡っていく。
私は足元を見下ろすと地面がなかった。
いや正確には地面はずっと下にる。
それはスカイダイビングで地面を見下ろしているような光景だった。
濁った太陽に照らされた赤茶色の大地は地平線まで続いていた。