夜が怖くなったのはいつからだろう?
深夜十二時を過ぎたあたりから鬱のような状態になり恐怖が襲う。
なにもかもが嫌になり目に映る物が怖くなる。
しかし今夜は月明かりが大きいので少しだけ恐怖と頭痛はやわらいだ。
いつから狂ってしまったのだろう、私の人生は。
“ブブブ・・ブブブ・・ブブブ”
まだら模様の蛾がせわしなく動きまわり羽音をたてている。
どこから入って来たのだろうか。
もう何日も部屋に閉じこもっているから入り込む“すき間”などなかったはずだ。
・・・そういえば今日は何日もベランダに干しっぱなしになっていた洗濯物を取り込んだな、あぁ、あの時か、君が部屋に入って来たのは。
もしかして君は私を救うためにやってきたヒーローなのかい?
それとも友達が希望かな?

“ズキン・・ズキン・・ズキン”
頭の中の細い糸が切れかけている。
その細い糸が切れないように円周率を数えて正気を保とうする。
「3.14159265358979323846264338」
お経の様にブツブツと呟いた。
無限につづく円周率を数えながらテディベアのぬいぐるみを胸に抱き顔を埋める。
カビのようなすえた臭いが鼻につく。
テディベアの名前はレイナ。
私と同じ名前だ、彼女は私の分身だ。
私が唯一、心を許せる相手。
「32795028841971」
「どうしたの?レイナちゃん?顔色が悪いよ?また頭が痛いの?」
「6939937510」
「あのねレイナ、頭がね、頭がね、ずっと痛いんだよ。このままだと気が狂いそうになっちゃうよ。お薬を飲まなくちゃいけないんだよ。隣町の精神病院に行かなくっちゃいけないのはわかっているんだけど嫌なんだ。光が眩しくて外にでるのも嫌になるんだ。人に見られるのが嫌になるんだよ、なんで私はまだ生きているの?」
目玉の所に銀色の釘が刺さったままのレイナは黙って話を聞いてくれた。