予想外の答えに、私は何と返して良いのか困ってしまった。



でも、ああ、そうか、と思う。


さっきの小さな違和感は、この事だったんだ。


先生は『俺たちの父親』と言った──。


共通なのは父親だけ。




腹違いの、兄弟──。




先生は小さく息を吐き出し、すっかり冷めてしまったコーヒーを口に運ぶ。


そして、またゆっくりと、言葉を選んで話し出した。



「俺は、親父が愛人に産ませた子なの。跡取りが欲しかったのになかなか子供が出来なかったから。

下に二人弟がいるけど、俺だけ愛人の子供なわけ。

まぁ愛人って言っても、子供を提供するためだけの契約──子供産ませて、親父が俺を引き取った時点で縁を切ってるから、どこの誰だかも俺は知らない。

俺にとっては、弟を産んだ人が母親。

でも、母親からしたら、愛人の子が夫の跡継ぎとか、たまんないだろ?

俺だったら死ぬほど嫌だね。

だから俺は医学の道には進まなかった。母親には育てて貰った恩があると思ってるから。

別に医者になりたいと思ったことも無いけどね、あんな最低な父親を見て育ってるし」