降ってきた雨粒が電車の窓を水玉模様に変え始めた。


俺が声を出したからか、立花がそろりと顔を上げる。


「雨、降ってきたみたいだ」


車内で大きな声を出したくないからと言う言い訳を使って、俺は立花の耳元でそう囁いた。


立花はそれにピクリと反応して、また俺の肩に顔を埋めた。


恥ずかしいのかなんだか知らないが、それ、逆効果だからな、立花。


他の男──倉林とかに同じ事やってないだろうな。



思いがけず始まった嫉妬は、まるで今まさに電車の外で始まった夕立の空の暗雲のようにあっという間に立ちこめて、俺の心の中をどす黒く支配し始める。



立花の背中に回していた手に、ぐっと力を込めて、自分の中の暗雲と対峙した。


立花がほんの少し顔を上げて、チラリと俺の顔を伺う。


そんなちょっとした仕草や表情があまりにも愛おしくて、電車の中だと言うことを忘れそうになる馬鹿な自分を、懸命に押さえ込んだ。