先生がいてくれるなら①【完】


もし口にしてしまえば、このほんのちょっとだけ特殊な関係は、脆く崩れ去ってしまうだろう。


今の俺たちの微妙な関係を手放す勇気は、俺にはまだ無いから……。



俺は小さくため息をついて、ギュッと抱きしめていた腕を少し緩めた。


二人の間に、ついさっきまでは無かった空間が出来る。


立花が慌てて俺の背に回していた手を離し、顔を真っ赤にして俯いた。



はぁ。


ずっと抱きついててくれて良いのに、なんて巫山戯たことを考えながら。


砂の上に落ちてしまった帽子を、まだ赤くなって俯いたままの立花の頭にふわりと乗せて。



もう少し。


この海岸にいる間だけで良いから、コイツに触れるのを許して欲しい。


できる限り、触れる部分は少なくするから。


指先だけ、それだけで良いから──。