抱き寄せられた時に落ちた帽子が足下に見えているけど、まだ私の背中に回されたままの先生の手を振りほどきたくなくて、私は俯いたままそっと目を閉じる。
先生はもう一度小さなため息をついて私の背中から手を離し、自分の髪をクシャリと乱したあと身を屈めて足下の帽子を拾った。
砂を払い落とし、俯く私の頭に優しく乗せる。
日差しはさっきより弱くなっていて、少しずつ陽が傾き始めているのが分かる。
先生は少し躊躇った後、再び私の手をそっと取り、緩く指先だけを絡めて繋ぐようにして手を引いて歩き出した。
今度はさっきよりも浅瀬を歩いているので、寄せる波が時折足を濡らす程度だ。



