確かにお店に入る前よりずっと人が増えて、さっきみたいに後ろについて歩いていたらはぐれてしまいそうだった。
だからって、手、手を! 手を繋ぐなんて!
ちょっと、心の準備が……!!!
ひとりであわあわする私をよそに、先生は涼しげな顔。
「何か欲しい物とか無いのか?」
「えっ」
突然聞かれても、何が欲しかったのか思い出せない。
私はスマホの買い物リストを開いて、日頃から欲しい物をメモしたアプリを起ち上げた。
「あ。えっとマグカップを買いたいです」
私がそう言うと、先生は私の手を引いて雑貨店へと入った。
可愛い物から上品な物まで色々あって、ちょっと迷う。
──でも。
棚の奥の方にあるカップを見た瞬間、私はもう他の物は目に入らなくなってしまった。
白っぽくて、丸くてころんとしてて、でもちょっと素朴な土の感じが残るマグカップ。
私は慎重に手前の商品をどけて、それを手に取る。
うん。思った通り、手になじむ感じがする。
私はこれを家に迎えることに決めた。



