――ッガタン

鈍い音と共に足に痛みが走った。



「っい、てぇ…」


どうやら机に足をぶつけてしまったらしい。しかも脛。打ち所が悪すぎる。

ぶつけた所を手で押さえながらしゃがみ込む。真っ暗の部屋の中を何の灯りも点けないで歩くのは危険だ。
せめてスマホか何かで足元を照らしておけばよかったと後悔したところでもう遅い。




「…ん、…空大…?」


黒く染まった空間に鈴を転がしたような可愛い声が微かに響く。

布団に包まり、寝息を立てていた彼女がもぞりと動いたのが衣擦れの音で分かった。

ジンジンと痛みを放つ足から手を離し、声がしたベッドの方向まで距離を詰める。


「ごめん、起こしたな」

「ううん。うとうとしてただけだから、大丈夫」


…嘘つけ。寝てたくせに。


いつだってそうだ。みぃは他人を気遣う心を忘れない。お人好しすぎるだろってくらいに優しくて、陽だまりみたいな温かさを持つ子。
そんなみぃだから、俺は好きになったんだ。

…そう。だから…、





「飲み会、楽しかった?」


布団からひょこりと顔を出しては柔らかく微笑むみぃが暗闇に慣れてきた瞳に映る。

遣る瀬無さをそのまま表したような溜め息をハァーと吐き出しながら床に腰を下ろし、ベッドの淵にボスンっと顔を埋めた。


「…空大?」

「…んー?」

「どうしたの?気分、よくない?」


項垂れる俺の頭を小さな手が優しく撫でる。今すぐその手を取って組み敷きたくなる衝動を必死に抑えた。

いつも他人を気遣って、お人好しだろってくらいに優しい、俺の彼女。
俺の、みぃ。


そんなみぃだから好きになったけど、そんなみぃだからこそ、きっと心の内で沢山我慢している事があるはずで。

そんな簡単な事に今まで気づきもしなかった…いや、考えすらもしなかった自分が不甲斐なさすぎて、嫌になる。