『え、』
いきなり振り向いた私に驚いたのか、その男の子はぴたりと動きを止めて私を見下ろす。
茶色の瞳はきょとんと丸くなっているけれど私の方がこの距離に驚いていた。
とにかく近い。
後少しでも私が後ろに下がれば、あっという間に身体が密着してしまいそうだ。そう思うと途端に変な緊張が走る。
『なに?』
その男の子が首を傾げれば、ゴムで括り上げられた髪がぴょこん、と揺れた。
…ちょんまげ…?
コロッケパンを先取りされたショックすらも忘れて、ちょんまげ姿の彼を無心で見つめてしまう。
ニキビひとつない綺麗なおでこと形のいい眉が、惜しげもなく曝け出されている。
『もしかしてコレ狙ってた?』
目の前にチラつかされたのは間違いなく私が昼食にしようとしていたコロッケパンだったけど、咄嗟に首を横にぶんぶんと振った。
『っううん、大丈夫』
『そ?じゃ遠慮なく』
財布を取り出した彼は『おばちゃん、金ここに置いとくからー』と手早く会計を済ませて、踵を返す。
『おーい空大、パン買えたん?』
『おー。買えた』
『つかお前、前髪括ったままじゃん!ウケんだけど』
『うるせ、楽だからいーんだよ』
ケラケラと楽しそうな声を背中に浴びる。
ちらっと後方を窺い見ると、さっきのちょんまげの男の子は大きな口を開けて楽しそうに笑っていた。
(コロッケパン、食べたかったな…。)
明るくて、よく笑っていて、それでいて少し、怖そう。
第一印象は、多分そんな感じだった。


