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コロッケパンと、クリームパン。
頭の中はそれで埋め尽くされていた。
高校に入学して早一ヵ月。
まだ通い慣れたとは言えないけれどこの一ヵ月で分かった事は、この学校の購買のパンはとても美味しいという事。その証拠に、この日もパンの売り場は人が密集していた。
甘い系と、おかず系。
パンを選ぶ時はいつもこの二択で迷うのだけれど、今日はおかず系が食べたい気分だった。
(コロッケパン、あるかな…。)
群がる生徒たちに倣《なら》うように私もその混雑している場所へと身を投じた。
おしくらまんじゅう状態でぎゅうぎゅうに押されるなか、目一杯背伸びをする。古びた長テーブルの上、ぽつんと取り残されたコロッケパンを視界に捉えた。
どうやら最後の一個らしい。
ホッと胸を撫で下ろしながらそのパンを取ろうと手を伸ばしかけた――その時。
『、』
後方から突然、逞しい腕と大きな手がぬっと伸びてきた。
それだけでも十分驚いたのに私が今まさに掴もうとしていたコロッケパンをその手が掻っ攫っていったもんだから、思わずギョッと目を見開く。
反射的にバッと首だけで後ろを振り返った先、目に飛び込んできたのは開《はだ》けたシャツから覗く綺麗な鎖骨と、キラリと光るピアスだった。


