(女性56歳、主婦)

夫が早くに亡くなって、することもなく日がな家にいることが多くなった。

たまに友達とお茶に行くこともあったが、最近は回数が減った気がする。

そんななか、なんとなく続いているのが日記だ。

日記と言っても大したことは書いていない。やる気ない時は「夜、惣菜を買って食べた」位しか書いていない。

それでもなんでか、毎日開いては書いていた。

そして昨日も日記を書こうと開いたら「階段に気をつけろ」と書かれていた。

私は驚いた。こんなことを書いた覚えがないからだ。

誰か忍び込んだのか。私がボケたのか。混乱しながらもその字を見て気づいた。

それは亡くなった夫の文字に似ていた。独特の文字の終わりが丸こっくなるのは間違いなく夫の字だった。

亡くなった夫が私に忠告をくれたのか。落ち着いて、ありえないけど実際に起こった事実を受け止めた。

今日はその忠告を信じて階段のある所を避けた。おかげで特に怪我もなく過ごせた。

ありがとう。夫にそう心の中でつぶやき、お礼を書こうと日記を開けた。

「すまない」

夫の字でそう書かれていた。