クマのぬいぐるみ


「どーしたの?」

今日はめずらしいことばっかり。

「この前は、ごめん。誘い、断った。バイトあるって、言って。それは本当だけど、行けば良かったって、後悔してる。あんなに…あんなふうに傷つけるなんて、思ってなくて。ごめんな」

傷つける?
私は傷ついてたのかな…
佐紀が話を盛ったのかもしれない。
気にしてないのに。
でも彼は、さらに続けた。

「泣かせて、ごめんね」

ぎゅっと優しく、私を引き寄せて抱きしめる。彼の体温に触れるのは久しぶりかもしれなかった。

「今度、デートしよ?」

そう言って、彼が腕に力を込める。
こくりと頷くと、温かいものが頭に触れた。

彼の手が、温かい。



ふと既視感のあるものが目に留まった。
それは、クマのぬいぐるみ。
絶対に見たことがある。
でも、それがいつなのか、どこでなのか。
記憶にもやがかかっているみたい。

まぁ、いいや。

彼がそうしてくれたように、私も優しく抱きしめ返す。私の視線の先にいるクマのぬいぐるみに微笑んで…

──それから先は、二人だけのひみつ。

                 END.