小児科待合室にて。

 目の前に腰掛けたヒゲ面の男性、なにやら妙にぎこちない内股が可笑しい。
 それもその筈。膝の上には赤ん坊。それはそれは小さな赤ちゃんが乗っかっている。ピンク色の服がぶかぶかだ。
 しかしこの父親、先程からじっと赤子を見詰めている。一言も発しない。ただただ見詰め続けるばかり。 ご機嫌な赤子はその小さな手をふわりふわりと泳がせる。と、それをいきなりギュッと掴む父。瞬間、あひゃっと笑う赤子。その繰り返し。すると父親今度は赤子の頬をなぞり始めた。なるほど良く見ると、十円玉大のアザがある。それに向かって「無くなれ~無くなれ~無くなれ~」と呪文を唱えるかの様な仕草だ。いや、もしかすると‥そんなアザなどどうでもいいのかも知れない。じっと見つめる視線の先に在るものは、希望と不安が交錯する我が娘の将来、それを憂いていたりするのだろう。なのに娘ときたらそんな父の胸中など露知らず、
 「この温かい膝の上なら何にも怖くないわ。」
とでも言わんばかりにその無防備な体を預けていた。



「○○さぁ~ん。」
 不意に、看護婦さんの声が待合室に響いた。

どうやら、診察の順番がきたらしい。まるでガラス細工を扱うかの様にそっと赤子をだき抱えて男性は立ち上がった。

 その、歩いてゆく後ろ姿は妙にがに股で‥何だか可笑しかった。