志摩が腰をかがめて、私の顔に影が落ちた。



唇に柔らかな感触と、私のものじゃない温度。



それはほんの一瞬で、キスだと認識するにはあまりにも儚かった。



それなのに心臓がトクトクと速い音を刻み始める。



遠慮がちに頬に残された手が、息が触れるほど近い志摩が、感情を殺すように離れていく。



それがなぜか名残惜しくて、泣きそうで、私は思わず顔を歪めた。



胸の奥で眠っていた、小さな小さな想いが目を覚ます。



それは私の知らない感情で、気がつけば無視できないほど膨らんでいた。



「私…嫌みたい」



志摩は気まずそうに私から視線を逸らした。



私はそんな志摩の手を捕まえて、恐る恐るもう一度自分の頬に当てる。



「志摩の手が離れていくのが、寂しい」



志摩の温もりが消えていく瞬間、心に走ったピリピリする感情。



苦くて、甘くて、苦しくて。



これが恋なのかは分からない。



でも名前をつけるなら、それはきっと恋という名を持つのだと思う。



ずっと心の奥の方にあって、隠れていたから気が付かなかっただけなんだ。



今なら、どんな気持ちで志摩が傍にいてくれたのか分かる気がする。



それを無かったことにはしたくなかった。



だから、