ビッチは夜を蹴り飛ばす。

 

 あつ、ってたぶんお酒の余波を涼しい顔で嘆く硯くんに、ぽかんとしてからえーと、と情報を整理する。

 でも色々あって結局硯くんが闇落ちしてなかった事実があっても、それでわーいって手放しに喜べるほどあたしだってばかじゃない。後からむくむくとこみ上げてくるのはやっぱり大半が嫉妬とかやきもちだ。

「…ふんだ、どーせ硯くんだって綺麗な外国のボンキュッボンのおねーさんがいいんだ」
「なんでそうなる」
「…」


「めいじゃなきゃいやだ」


 ふ、となんの前触れもなく言われて一瞬のことにぽかんとして硯くんを見る。


「…今のめざましにするからもっかい言って」

「やだわ」
「なんでじゃん!! 硯くんはあたしに大切なこと言わないって前に言ったけど硯くんだってあたしよりもっとそうだから!!」
「おれは言った」
「いつ!? あれか!? ミレーナの前で俺、参上!! って言ったやつ!?」
「言ってねーわそんなこと」

 どこのライダーだよ、って鼻で笑われるけどあたし英語わかんないんだってば硯くん。ミレーナと対峙中それまで眼中になかったミレーナの標的があたしに切り替わった瞬間何かを言ったなら、それだって日本語で言ってくれなきゃわかんない。俺参上にしか聞こえない(あたし翻訳)。

 柵を持ちながらぐ、と下唇を噛み締める。


「…それに硯くんにあたしは不釣り合いだって、」

「…誰がそんなこと言った」
「ジュリアン」
「あいつ」


 顔を上げた硯くんが珍しくむかついたような顔をしたけれど、事実そうだよって思ったからあたしだって言い返す言葉も見つからなかった。しゅんとして柵を持ったまま足先で床を蹴り、そうこうしてたら隣からその様子を見てた硯くんの視線を感じて顔を上げる。


「…レベッカには」

「…」

「本当は一晩付き合えって言われた」
「うん!?!?!」
「そこをなんとか譲歩して今ので手を打ってもらったんだよ」
「譲歩!! キスで譲歩!!」
「おれに無茶苦茶に抱かれてるやつがなんか言ってr」

「わーあーわー!!!!!!!!」


 がばりと口を塞いで至近距離でまた目が合う。でも切なくてそろ、って目を逸らして硯くんから手を離したらそのまま、振り向いた硯くんの顔が傾いて一瞬あたしに近づいてくるからふい、と顔を逸らす。

「…キスは嫌」
「…」

「他の女の人とした人となんかしたくない、こんなのは裏切りだ、身体の浮気だ」


 怒ってるんだよこれでもあたし、って心で唱えたらわかった、って静かに承諾したみたいな反応があって、頭をよしよしされる。…おいまたか!


「そうやっていつもいつも子供扱いして、! あたしはもうれっきとしたレディなんだからね!」

「うん知ってる」

「じゃあちゃんと大人扱いしてよ」

「いいよ」