ビッチは夜を蹴り飛ばす。

 

 警察からお金返してもらうや否やこんなことしていいのかよって思うけどさすがバーの店主なだけあってジュリアン自身めちゃくちゃ顔が広いのか、まるで快気祝いのようにフロアの中は知らない外人と言う名のパリピで溢れ返っている。

 お酒を飲んでハイになって踊り出すところなんかまんま海外だなって思うけど、招待されるなり考えなしに来たのもちょっと考えものだった。さっきからお酒どうぞ、みたいなおぼん? トレー? のグラスに明らかお酒を乗せたお兄さんに声をかけられて渋々受け取ったけど飲めんのよ! 硯くん、硯くんどこ行った!

 きょろきょろ辺りを見回してたらバルコニーの所で風に当たってるっぽい背中を見つけてあっ、と声をあげる。


「硯く」


 ん、てにこやかに手を挙げた所で、横から現れた金髪美女———情報屋・レベッカとの熱烈なキスを目の当たりにしてぴしっ、と硬直する。


「I received the theme as measles.
 (お題はしかと受け取ったわ)」

 ちゅ、とおまけにほっぺたにまでキスをすると誘惑するように彼を見てまいど、ってこっちに歩いてくるレベッカが、あたしを見てふふんとちょっと得意げに笑って横を通り過ぎてった。

 ぎぎぎ、と振り向けばもう姿のない金髪美女に、あたしは笑顔のままかろうじて前に向き直る。







 



 そのまま踏み込めばちょうど手の甲で口元を拭う硯くんと目があった。知らんぼけ。きっ、と目を逸らして夜景を見ながらワインの入ったグラスに口を付けると唇に到達する前に横から奪われて硯くんがくーっと一気に流し込む。
 そして苦い顔で吐き捨てるように言いのけた。


「うわ度きっつこれ」

「…硯くんお酒嫌いなの」
「嫌いじゃないけど好きじゃない…」
「なにそれ」


 半目で言って笑ったら、柵に背をつけて下を向く。なんだよ。意味わかんない。酔わせて欲しいんですけど。酔って全部忘れたい。く、と下唇を噛み締めて今のだって見られたってわかってるくせにそれでも弁解のない隣に、顔を上げて声を振り絞る。


「…硯くんなに今の、てか、一連のこと意味不明、ちゃんとわかるように説明して」

「うん」

「あの日、あたしと別れてから何があったの? なんでミレーナ側についてたの、てかなんでレベッカと顔見知りでちゅーしてんの!」

「ライターだよ」

「…ライター?」


 小首を傾げるあたしに、硯くんがこくりと頷く。


「あの日、(めい)がジュリアンのこと拾って家で助けてくれって言った時ジュリアンがミレーナにもらったって言ってたやつがあっただろ。店の紋章が入ってるやつ。バーで乱闘あって鳴のこと車から降ろしたあとふとそのことを思い出した。

 帰りの道が事故ってて迂回した時ミレーナが働いてたっていうライターのロゴと同じ店を見つけたのはほんと偶然だったけど、触り程度に話聞いたらミレーナの裏情報を有料で(・・・)レベッカがたれ込んだ。

 で、そのタレコミをもとに二人より先に裏カジノに辿り着いた。明らかやべーしだるそうだったから帰ろうとしたときになんか知らんけど店先の護衛に目をつけられて、帰りたかったから喧嘩して相手が倒れたところで偶然支配人のミレーナに見つかった。で、技能を買われてとんとん拍子で用心棒に転身。まぁどーせ後々鳴たちも来るだろうって思ってたしこのまま内側で動ける方が楽かと思ってそのままステイしてただけ」