ビッチは夜を蹴り飛ばす。



「硯くん、あのひと」

「うん」
「生きてる?」

「あんなとこ撃たれたら普通死ぬわな」


 けど撃ったの彼女、そう言った硯くんやあたしから少し離れた距離でミレーナに撃たれた(・・・・・・・・・)ジャンは股間を抑え泡を吹き、のたうち回りながら悶絶していた。今まで無言で微動だにしていなかっただけに大柄なジャンが呻きながらのたうつ様は恐ろしく、ずれたサングラスの合間から覗いた盲目の白い目がどこも捉えずに涙する。

 その瞳は暗闇の中、ミレーナを探しているようにも見えて。



「All for Jean.
 (…全てはジャンのため)」



 血飛沫を浴びたミレーナは、目を伏せてひっそりと微笑んだ。


















 あのあとすぐ倉庫に駆け付けた警察によりミレーナは検挙され、既にその頃にはほぼ動かなくなっていたジャンもまた救急搬送された。


 本件を機に裏カジノの実態も公に出てあの場に関与していたセレブのハリウッド女優や名の知れた俳優なんかも後日アメリカのニュースや新聞に大々的に乗ることになって、あの建物も煌びやかに運営し成立していたカジノのカの字も見当たらないほど廃れて一度はもぬけの殻になったけど、ああいうテナントはすぐに買い手がつくと硯くんが言った通り、事件の(ほとぼ)りが冷めた頃には全く別のセレブが運営を開始するあたり、あの界隈はほぼとかげのしっぽ切りみたいなところがあって、仮面を被って悪どいことをしているひとはジャン一人を制圧したところできっともっとうじゃうじゃいる。


 パトカーに乗り込む際、ジュリアンに振り向いたミレーナは笑っていた。どうしてジャンを撃ったのか、愛していたのか、その真実を知ってるのはミレーナだけだったけど、その目は並べていいのかわからないけれどあの夏の日、あたしが硯くんと学校を壊した日の目と同じものだったから、きっと彼女も自分が自分である為に大義を全うしたのかもしれない。




 ジュリアンが被害届を出していたお金もちゃんと戻ってきた。厳密に言うと少し誤差があるらしいけど、その点はのちにジュリアンが警察に直談判するみたい。そしてその多くは、ミレーナの歳の離れた兄妹宛てに送ったんだって。

 で、今。


「Everyone was drinking jean jean to celebrate the solution!!
 (さ——————っ! みんなジャンジャン飲んじゃって———♡♡)」


 ジュリアンの大盤振る舞いで、ホテルのワンフロア貸し切りで飲み会(と言う名のパーティ)が執り行われている。