「っ、!」

 カウンター席で俯いて座っていたらカラン、と入り口が開いて反射的に振り向いた。けれど、そこに立っていた一つだけ(・・・・)の影に落胆する。
 そうすればそのちんちくりんはぴ、と片手を上げた。



「やほ」

「…なんだ、あんただけ? あの可愛い子はどこ行ったのよ」

「帰った」
「帰っ…! ふん、お呼びじゃないわ。あんたなんか所詮あの子ありきでしょ? あんた一人になにが」
「かーえろ」
「待ちなさぁい!!!」

 アメリカンジョークよ!! ってヘッドロック決められるけどジュリアンのガタイが良すぎてあわや本気で死にかける。待つから離して、と涙声で言ったらようやく解放してくれて、ふらふらとさっき座ってたカウンター席に舞い戻った。

「………ねえジュリアン、ひょっとしてミレーナのことについて他に何か知ってるんじゃないの」

「…」
「なんで硯くんいるときに言わなかったの!」
「言ったらますます手を貸してくれないと思ったのよ!」


 でもそれ以前にあんなことで腰を抜かすなんて、見損なったわ、って言うジュリアンに思う。

 …いや。普通あんなことされて一般人なのに銃奪って反抗出来るのは、硯くんだけだと思う。それに硯くんはきっと、正直他人以前に、自分がどうなろうが知ったこっちゃないんだ。あんなの向けられても平気で喧嘩する硯くんを見て、今日本気でこわいと思った。

 硯くんがじゃない。


 硯くんが自分なんてどうでもいいって思ってそうなのが、いやだ。



「………前に…家族を養うために仕事をしていたってのは知ってるけど、コツコツ真面目に働くのが馬鹿らしいってボヤいたことがあったの」
「…ミレーナが?」

 ジュリアンは頷く。

「………それから…ここを辞める直前、それまでずっと浮かない顔をしてたあの子が、すっごく晴れやかな顔してあたしに言ったの。いい稼ぎ口が見つかった、って…」
「…それ、なんなのかジュリアン知ってるの?」
「あたしは知らないわ。けどそうね、ほかの従業員ならひょっとしたら…」

 少し考える動作をしたあとジュリアンがテーブルを叩いてガタ、と立ち上がる。そして店の奥へと進むと、上着とサングラスをかけてバイクか車と思しきキーを投げて手でキャッチした。


「そうと決まったら行くわよちんちくりん」

轟木(とどろき)(めい)です」