「帰るよ鳴」
「え、でも」
「おれたちカタギなんで」
犯罪とかむりなんで、と立ち上がった硯くんがすかさず歩いていくからあたしも椅子を引いて慌てて立ち上がる。ジュリアンに振り向いたけどさっきと同じように俯いたままでいて、カランと入り口のベルだけがあたしたちを送り届けてくれた。
フェラーリに乗り込んでシートベルトをつける硯くんに、隣に後から乗り込んだあたしが後ろを向くけど容赦なく発進されてうぶ、とヘッドレストにキスをする。
「…あの、硯くん」
「せっかくだからドライブして帰る? 夜景綺麗だよ」
言われて見ればしばらく夜の街を走行してたから都市部なこともあり街のネオンが綺麗すぎて、右手には海も見えて、素敵なドライブに一度はふぁ、と声を出す。でも、素敵なドライブ、のはずなのにやっぱりそんな気持ちにはなれなくて。風を受けてなびく髪を押さえつける。
そして信号で止まった時にようやく左シートに乗り出した。
「硯くん、やっぱり戻ろ!」
「うわ言うと思った」
「だって可哀想だよジュリアン!」
「その偽名もほんとかどうか怪しいとこだよなにがジュリアンだジャイアンみたいな顔して」
「あー! 硯くんわっるいとこでてるよそうやって見かけで人判断しちゃいけないんだ!」
「おれたち仮にも殺されかけたんだからな。おれが死んだらもれなく鳴は輪姦されてたんだぞ」
「………そんな話してたの?」
「…わかってなかったの?」
英語学べと釘を刺されていや、だから今勉強中! って叫んだら硯くんがダルそうに右耳に小指を突き立てる。それやめて!
「だってあそこまで事情聞いたのに助けないなんて薄情だよ、硯くんいなきゃ今度こそジュリアン殺されちゃう! あたし海に浮いてるジュリアン見たくない!」
「うっさいな黙んないなら降ろすぞ」
「すれば!? あたしだけでもジュリアン助けに行く!!」
「マジで降ろすか普通?」
ぶーん、と颯爽と走り抜けていったフェラーリを取り残された路上でぽつんと見送って、いよいよ見えなくなった頃たら、と冷や汗が流れる。いや確かに冗談通じない人だとは思ってたけどさ。マジで置いてくことないじゃんか。
「硯くんのばか!!!!!!!!」



