good bye、の言葉だけは聞き取れて怖気て向かいにいる硯くんを見る。そして同じくあたしを見ていた目が一瞬、ちらとカウンターの方を見た。で、口パクされる。あ、う、え、お。
隠れろ。
瞬間上体を前に倒した硯くんの後ろ脚が下から銃を蹴り上げ天井にガァン、と穴が開く。その拍子でジュリアン側のもう一人が硯くん目掛け発砲するも光が頬を掠めて眼鏡だけが飛んでいった。
「This guy got rid of bullets!
(こいつ弾丸よけやがった!)」
も一度男が構える前にその銃を横から掴み床目掛けて3.4発発砲させ、そのままふんだくると黒人の方に向ける。とっさに手を挙げかけた黒人にだけどさっき硯くんに銃を向けていた男が吐息でにた、とほくそ笑んだ。
「It's over. Did you forget that you have a gun over here?
(終わったな。こっちに銃あるの忘れたのか?)」
「これのこと?」
腰からさらりと銃を取り出す硯くんに向かいの男がえっと青ざめて体をまさぐる。さっきの一瞬で取られたのか、みたいなことを言ったのちに両手にショットガンを構えた硯くんがギラついた目で上唇をぺろと舐め、
「物足りない」
容赦なく発砲した。
「…さっきの二人は?」
「外」
奴らの鎮圧に成功した硯くんの脅しの発砲は、彼らの顔面スレスレを貫いた。で、のびた二人を引き摺ってしばらく帰って来なかったから何となく察してたけどいつものサテンシャツに案の定返り血が付いていて目を逸らす。
この後ここを出るときにボコボコにされた二人が縛り上げられてポリバケツに入れられてることを知るんだけど、それはまた後の話だ。
「硯くん大丈夫? ほっぺた」
あたし絆創膏持ってるよ、って奇跡的にパンツのポッケに入っていた絆創膏を剥いて硯くんの綺麗な肌にぺたりと貼る。その間硯くんの目はカウンターに俯いて座るジュリアンを捉えていて、あたしが絆創膏のゴミをくちゃ、って握ったらその鈍色の瞳が瞬いた。
「今の何」
「…」
「どういうこと」
伏せていたジュリアンがゆっくり顔を上げる。そしてあたしと硯くんを交互に見て吹っ切れたように笑った。
「あんたたちすっごい良かったわよ!! チームワーク! まさに阿吽の呼吸ね、それにスズリ、あんたすごいわ! あの身のこなし! あんたならミレーナを」
「てこでも答えないわけね」
おれじゃなかったら死んでたという。
一歩間違えていたらこいつも、と顎で指図された場所にあたしがいて、その声があんなことがあったのにいつも通りすぎてちょっと今更だけど硯くんすら怖くなった。
そしてカウンター席から腰を浮かす。



