それはラブレターだったり、バレンタインの逆チョコだったり、誕生日の小さなプレゼントだったり。
中学から高校の間、何回それを繰り返したのだろう。
姉に伝言を頼む彼らは、わたしが同じ誕生日だということを思いもしないのだ。
せめて、一日でも違っていれば、こんなにみじめな思いをすることもなかったのだと思う。

わたしはなんて運の悪いヤツなんだと思わずにはいられない。


姉は日傘をさし続ける。
わたしは、高校に入ると陸上部にスカウトされる。



そいつはある日、クラブ活動に行く途中、分厚い黒縁メガネでわたしの前に現れた。
ひとめでわかる、難関大学を受験しても合格するのが確実なヤツだった。

つまり、学年1、2を争う優秀な男子である。
眼鏡の奥は凛とした強さを感じる、ひとつ上の学年の男子である。

わたしには縁のないタイプ。
今までも。
これからも。

「やあ、、」
声を掛けてきた途端、姉に用があるのがわかった。
なぜなら、わたしには彼には用がないからだ。

だから、ずいっと手を差し出した。

こういう相手が赤面して、さも大事なものを突き出すようにして、姉に渡して欲しいと頼まれる毎度繰り返される借り受け儀式を、最近ではすっとばすことを覚えたのだ。