カエルが残してくれた鍵を使って教室を出た私たちは、校舎の薄暗い廊下を歩いていた。

ドアを開けた瞬間、ゴーン……と荘厳な鐘の音が辺りに響いたけど、特に何も起きなかった。

後ろからはずっと志乃の啜り泣きが聞こえてくる。

私自身、自分の行動が未だに信じられない。いくら自分たちが助かる為とは言え、あれほど冷酷に生き物の命を奪うだなんて。

「ねえ……何か思い出した?」



恐る恐ると言った様子で暦が尋ねた。流石の彼女も、さっきの一件はショックだったのかな。

「ううん、具体的なことは何も。ただ……」

「ただ?」



私は言葉の続きを言いかけて、そして怖くなってやめた。

「やっぱり何でもない」

「何よ、気になるじゃない」

「聞いてもきっと、誰も幸せにはならないから」



――カエルを刺した時の感覚が何故か懐かしく感じた、だなんて言えるわけがない。それが例え私の過去に繋がるヒントだとしても、考えたくもない。

私の返答を聞いて、暦は露骨につまらなそうな表情を浮かべた。

一体何を期待しているのだろう? 私の過去を掘り起こすことで、彼女に良いことでもあるのかな?

「あっそ。それよりさ、さっきから後ろでグズグズうるさいんだけど何の音? この学校は幽霊でも出るの?」



彼女は振り返ると、志乃をジッと見つめてその視線が手元で止まった。

「さっきから何なのそのキーホルダー。幽霊のくせにお守り?」

「これは……私のお母さんの形見なの。いつも肌身離さず持っておきなさいって」

「ふうん、ちょっと見せて」



志乃は怯えて首を振った。

「大丈夫よ。もし何かしたらこのナイフで私を刺して構わないから」



彼女は果物ナイフを取り出すと、それを強引に彼女の手に押し付けた。

志乃は怯えた目つきでナイフと暦を見つめていたけど、やがて観念した様子でクマのキーホルダーを暦に渡す。

「へえ、形見って言う割には何の変哲もないのね」



暦は全く興味のない様子で、顔の前でキーホルダーをブラブラさせる。

「あの……そろそろ返して欲しいんだけど」



「ん? ああこれ? ごめんやっぱり欲しくなったから返せないわ」