「だったらこのまま彼女とカエルを許すって言うの?」

「うん。許してあげるべきだと思う。だってカエルは用済みなんかじゃないし、私たちもここで死んだりなんかしないから」

「……?」

疑問符を浮かべる二人に向かって、私は段ボールの底の裏面を見せた。



『カエルハサイゴマデシンセツダ』



「カエルは最後まで親切……?」

「そう。どんなことがあってもカエルは最後まで親切でいてくれる。だからせめて許してあげようよ」



段ボールを投げ捨て、あっさり言い放った私に志乃が縋りついてきた。

「うわあああん! ありがとう、加奈ちゃん……シノとカエルさんを助けてくれて……!」

「大したことじゃないよ」

「加奈ちゃんはもうシノのお友達だよ! あ、加奈ちゃんが嫌じゃなければ、だけど……」

「いいよ、お友達になってあげる。志乃とも、親切なカエルさんとも」



私は志乃を引きはがすと、混乱した様子の暦に近づいた。

「暦、ちょっとさっきの果物ナイフを貸してくれる? やらなきゃいけないことがあるから」

「え? どうしてよ? これ凄く大切なものなんだけど」



暦が露骨に警戒した目で私を見る。

そんな彼女に、私は出来るだけにこやかに微笑んだ。

「どうしても必要なの。お願い、私は暦の味方だから」

「……分かったわよ」



逡巡の末、差し出されたナイフを私は受け取る。

それからぐったりとしているカエルに近づいて。

しゃがみ込んでポツリと、精一杯の慈愛を込めて告げる。



「ごめんね――でも、私のお友達ならきっと許してくれるよね?」



迷いなく振り下ろされた先端部分から鮮血迸って。

泣き叫ぶ志乃を振り払い私は淡々と作業を続けて。

そして変わり果てたカエルの臓物に手を突っ込み。

赤く染まった掌上で輝く鍵を二人の前にかざして。



「ほらね。カエルはやっぱり最後まで親切だったでしょ?」