茶髪の少女は小動物の様に起き上がり、白髪の少女と私を順番に見つめて言った。

「あ、おはようございます~! すっかりお寝坊しちゃいました」

「寝坊にも程があるわよ。こんな状況で良く寝てられるわね」

「えへへ……だってここの床ヒンヤリしてて気持ちいいから」



そう言って頭に手を当てる少女からさっさと離れ、白髪の少女は私を見つめた。

「あなた、名前は?」

「えっと……小鳥遊加奈(たかなし かな)」

「名前は覚えているみたいね。私の名前は月詠暦(つくよみ こよみ)。これからよろしくね」

「よろしくお願いします」



そう答えつつ、私は奇妙な違和感を覚える。これからよろしくって、まるでこれから長い付き合いになることが分かっているみたい。

「はいはい! ワタシの名前は東雲志乃(しののめ しの)って言います! 気軽にシノって呼んでください!」

「誰もアンタの名前なんか聞いていないわよ!」

「えー! ぐすっ……差別反対ですぅ……」



分かりやすく落ち込む志乃を見て、私はますます違和感を強める。喋らせる気が無いなら、どうしてわざわざ彼女を起こしたのだろう。

「それじゃあとりあえず、ここから出ましょうか。こんな陰気臭い場所にいつまでも居たくないし」

「そうね」



窓から見える景色は紫色の曇天が立ち込めている上に人気も全くない。だけど、ここでいつまでも動かないままよりはずっとマシだと思う。

けれど、暦が開けようとしてもドアは微動だにしなかった。いくら力を込めてもギシギシと耳障りな音を立てるばかりだ。



「おかしいわね……ドアが開かない」