月詠暦は倉庫に入ってくると、数メートル先で全身から光を迸らせる私を見てわざとらしくおどける。

「おおーこわっ! あんなにしおらしかったのに大した変貌ね。ってか、髪まで真っ白になったら私とキャラが被るじゃない」

「月詠……暦……!」

「あ、そう言えば昔アンタって綺麗な黒髪のせいでイジメられてたんだっけ? だから私みたいな白髪になりたかったってこと? そんな馬鹿馬鹿しい理由で目を付けられるなんて、こっちからしたホントにいい迷惑よねえ」



私が怒りのあまり唸り声を上げると、暦は嬉しそうに顔を歪ませる。

「そうそう、アンタはそうやって獣みたいな声を出す方がお似合いよ。大人しいアンタと行動を共にしてる間は吐き気を我慢するのが大変だったわ」



私は歯の隙間から再び呻き声を上げる。すぐにでも彼女を八つ裂きにしてやりたいけど、僅かな理性がその衝動を何とか抑えた。

全身からみなぎる力から察するに、私はかなり強くなっている。それでも、志乃の巨大クマを容易く粉砕した暦に無策で突っ込むのは危険だ。

「やっぱりアンタはイジメの天才ね。力でねじ伏せる前に相手の力を見極める。絶対勝てる相手しか獲物にしない……でもね、お互いにあまりそんな猶予はないのよ」



暦は、唐突に手にしていた真っ黒な本を突き付けた。

「アンタが自分探しの旅をしてる間暇だったから、私なりにこの世界を調べていたの。そしたらご丁寧に図書室にこんな本があって、私が知りたいことを全部教えてくれたわ」



彼女が本を捲ると、ページから赤い文字が飛び出して螺旋状に動き始める。

それはやがて複数の球体になり、暦を中心として回り始めた。