巨大クマは布で出来ているとは思えない程の地響き上げて後を追ってくる。

志乃は元々小柄な上に力が抜けきっていてスピードはかなり遅い。このままでは追いつかれてしまう。

私は何とか林を抜けると、志乃の手を引いて再び校舎に向かった。

このまま外を走っていたら間違いなく捕まる。なら、クマが追いかけづらい場所に逃げ込んだ方がいい。

「志乃、こっちだよ!」



フラフラと手を引かれる志乃を誘導して昇降口に入った瞬間、すぐ後ろから巨大クマがガシャン! と凄い音を立ててガラス戸に突っ込んだ。

無理やり昇降口に入ろうとして、巨体が挟まった様だ。これでしばらく時間稼ぎができそう。

しかし、ジタバタとドアの隙間で暴れるクマを見届けて私が振り返ると……忽然と志乃の姿は消え失せていた。



「……志乃?」



私は志乃を探して校舎内を駆け回った。

もう何が何だか分からない。一体私と暦は何者なのか、この世界はなぜ存在しているのか、どうして志乃は私を置き去りにしたのか。

全てがゴチャゴチャで、頭がいっぱいで叫び出したかった。誰かに助けを求めたかった。



――誰も助けてなんかくれない。



まただ。また誰かの声が脳裏にフラッシュバックする。



――だから、私が神になるしかないんだ。



神? 一体何の話? もういい加減私の思考を邪魔するのはやめてよ!



――さもなくば、弱い私が生きていくことなんて出来ない。



ピタ、と私はそこで足を止める。

きっとかつての私は極限まで追い詰められていた。そんな時私がよく行く場所があった。

そこはとても見晴らしがよくて――飛び降りて楽になりたいと考えてしまうくらい素敵な場所。



そして恐らく、今の東雲志乃はそんな時の私と同じ気持ちのはずだ。