「何で……何で言ってくれなかったのっ? あたし、涼介が高所恐怖症って知ってたら、ここに行きたいって言わなかったよ! 涼介が嫌だって言ってくれたら……やめたのに!」


「……んなの……言えるわけねえだろ」

 大声を出す加奈と対照的に、涼介は小さな声で答える。


「何でよ! どうせかっこ悪いとか思ってたんでしょ!?」


「ちが……! いや、確かにそれもあるけど……」

 否定しようと涼介が声を上げたが、すぐにまた小さな声になって下を向いた。


「……でも、加奈が来たいって言ったから……だから……連れてきたかったんだよ!」

 最後は恥ずかしそうに、それを隠すように涼介は言い放った。

 そうしても、耳が真っ赤になっている。


「……バカ!!」

 加奈は今日一番の大声で叫んで立ち上がった。


 涼介が驚いて顔を上げた。加奈を見て、目を丸くする。


 加奈が、泣いていた。眉間に皺を寄せて怒った表情をしながらも、目からはボロボロと涙を溢していた。


「あたしは……涼介に無理させてまで……Wデートしてまで来たかったわけじゃないもん! 涼介と一緒ならどこでもよかった! あたしは……涼介と二人がよかったんだもん!」

 止まらない涙を拭いながら、加奈は涼介に自分の気持ちを言った。


 まるで小さい子供のわがままだ。こんな風にしたら、涼介に嫌われてしまうかもしれない。

 そうわかってても、止まらなかった。