「……」

 やっぱり無理じゃん。

 という意味を込めて加奈は涼介を見る。


「……まあ、久しぶりだからな! 流石に一発じゃ無理だな」

 言い訳のように言って、涼介はまた百円玉を入れる。


「えっ……まだやるの?」


「当たり前だろ。そう簡単に諦めるかっての」

 涼介は真剣そのものの顔でクレーンを動かす。


「あ! クソ! お前邪魔すんなよ!」

 隣のぬいぐるみが邪魔をして取れずに、涼介はそのぬいぐるみに向かって怒っている。


「んにゃろー。絶対取ってやる」

 また懲りずに涼介は百円玉を入れた。


 見事にゲームセンターの戦略にはまっている。


 意地になって小銭を費やしていく涼介の横顔は、子供のように無邪気で、楽しそうだった。

 そんな涼介を見て、加奈は思わず笑みをこぼした。


 そして、それが無駄遣いになってしまっていることも忘れて、涼介の応援をしていた。


 もう使った金は千円を超えようとしている。いや、もう超えたのか……それすらも分からないくらいの数回目……


「おっ。いいとこいったんじゃねえの?」


 クレーンが上手い具合にぬいぐるみの隙間に埋まる。アームが閉じ、持ち上がっていく。

 しっかりとぬいぐるみは掴まれていた。


「落ちんなよー」


 穴へと向かうクレーンを二人で見守った。

 その願いが通じたのか、ぬいぐるみは穴へと落ちた。


「おし!」

 涼介はガッツポーズをして、取り出し口からぬいぐるみを取り出した。