あれから二年七ヶ月か……


 加奈はトイレの鏡の前で化粧を直しながらぼんやりと昔のことを思い出していた。


 涼介は、あの時言ったこと、もう覚えてないのかな。

 でも、加奈にとっては、あの時の言葉は、忘れられないものになっている。

 涼介は、もう旬の代わりという存在ではないから……


 水の流れる音がして、個室のドアが開いた。

 そこから出てきたのは、奈津美だった。


「加奈ちゃん……」

 少し驚いているような、怯えているような、そんな反応をされる。


「どうも」

 加奈はとりあえずそれだけ言った。


 さっきので、警戒されているようだ。

 沈黙の中、隣で無言で手を洗う奈津美を鏡越しに見た。


 奈津美は手を洗うために前傾姿勢になっていた。そのせいで、胸が寄せられて、黒のタンクトップから谷間が見える。


 おっきい……


 加奈は、おもむろに自分の胸元を見下ろした。


 すとーん……


 加奈の胸のラインは、奈津美のものに比べれば、その表現がぴったりなぐらいに小さい。

 谷間なんて影も形もない。無理矢理寄せて上げたって、あるのかないのか微妙だ。


 ……そう言えば、旬って胸の大きな人が好きなんだよね。男の人って、皆そうなのかな……


 もしかしたら、涼介だって本当はそうなのかもしれない。

 こんな見飽きた貧乳より、新鮮な巨乳の方が……


 そう思うと、奈津美の巨乳が恨めしく思えてきた。


「……やらしい……」

 加奈はわざと聞こえるように呟いた。


「え……?」

 奈津美は加奈の方を向く。


「そんな胸の谷間チラチラ見せて、彼氏いるのに、男誘ってるんですか?」

 奈津美の方は見ずに、加奈は言った。


 奈津美の反応は見るまでもなく分かった。

 この場の空気も凍ってしまう。


 最っ低……


 この場にいられなくなって、加奈は逃げるようにトイレから出ていった。