「お待たせー」

 旬の声がして反応すると、注文に行った二人が、トレイを持って戻ってきた。

 加奈は携帯を鞄にしまった。


「ほら、加奈。これでよかったか?」

 涼介が加奈にハンバーガーを渡す。


 加奈が前に食べて、美味しいと言ったことのあるものだった。


「うん。ありがとう」


 覚えててくれたんだ……


 心にじわりと涼介の優しさが広がっていくのを感じながら、加奈はそのハンバーガーを食べ始めた。


 ボト……


 斜め前の旬の口元から何かが落ちるのが加奈の視界に入った。

 間にはさまってるレタスだ。旬は気付くことなく口を動かしている。


「旬。こぼしてる」

 すかさず奈津美が言った。


「むあ?」

 旬が奈津美の方を向くと、またレタスがボトリと落ちる。


「もー……こぼさないでもっときれいに食べてよ」

 奈津美は紙ナプキンを取って落ちたレタスを拾う。


「違うって。これ、何かやたらレタスはさまってるんだって」


「何が違うのよ。旬の食べ方が悪いんでしょ……って、ああ、もう。口の周りもベタベタだし……何で鼻にソースがつくのよ」

 奈津美はもう一枚紙ナプキンを取り、汚れた旬の口周りと鼻を拭く。


「鼻が高いからかな」


「だから食べ方が悪いんだってば。……もう」


「……旬。お前は幼稚園児か」

 隣の涼介が口を開いた。


「奈津美さん。こいつ、昔っからこうなんですよ。何するにも手がかかるっていうか」

 涼介が笑いながら奈津美に話しかける。


「何だよ。その言い方。今は別にそんなことねえし」


「今はって、昔のは認めるのかよ。つうか、今の見てたら全っ然変わってねえだろ」


「変わったって。俺は日々進化してんだからな。なっ! ナツ」


「……さあ」


「ほら。やっぱダメなんじゃん」


「えー! 何でだよー。俺頑張ってるじゃん!」


「ホントに頑張ってる奴は自分で頑張ってるって言わないだろ」


「確かにそうよね」


「何だよー」